即時取得ってなんだろう?特に民法を勉強し始めて間もない方は、理屈をちゃんと理解できていないと一度参考書で学んでも直ぐに忘れてしまうでしょう。
そこで、この記事では「即時取得」について小学生でもわかるように解説します。
最後まで読んでいただけると、かなり理解度はアップできるのではないでしょうか。
即時取得とは?民法192条を確認しよう!
即時取得について書かれている民法192条を確認してみましょう!
✔️民法192条 即時取得
“取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がない時は、即時にその動産について行使する権利を取得する”
まあ、この段階では、即時取得とは、「取引により適正に手に入れたモノは、直ちに自分のものとして主張できますよ」。
このようなもんだと思っておいてください。
即時取得が成立する要件8つ
民法192条をただ読んだだけでは、抽象的な理解に留まります。ここから先では、即時取得が成立する要件を確認しましょう。
即時取得の要件は全部で8つあります。
✔️即時取得の要件
- 動産であること
- 取引行為により手に入れたこと
- 占有を開始したこと
- 平穏であること
- 公然であること
- 善意であること
- 無過失であること
- 前主が無権利者であること
これらの要件を満たせば、即時取得は成立します。
では、これらの条件を確認していきましょう。
1.動産であること
まず、大前提ですが、即時取得が適用されるのは「動産」のみです。不動産は即時取得できません。
即時取得は、条文に書いてあるように「動産について行使する権利」です。
では、動産であればなんでも良いのかといえば、例外もあります。ここでは、認められなかった例を少し紹介しておきましょう。
✔️即時取得が認められない動産の例
- 登録済みの自動車
- 金銭
- 伐採前の立木
- 有価証券
立木と自動車は特に注意が必要です。
伐採前の立木であれば不動産の一部として扱われるので、即時取得の対象とはなりません。
伐採後の立木は、持ち運び可能で、動産として扱われるので、即時取得の対象となります。
- 伐採前の立木・・・即時取得の対象外
- 伐採後の立木・・・即時取得の対象
自動車は、未登録の自動車は即時取得の対象ですが、登録済みの自動車は対象外です。
これも、少し考えれば当たり前でしょう。登録されているんだから所有者は明らかですよね。無権利者かどうかは登録を見れば判断できるからです。
登録者が所有者なので、わざわざ即時取得を認めてまで取得者を保護する必要はありません。
- 未登録の自動車・・・即時取得の対象
- 登録済みの自動車・・・即時取得の対象外
2.取引行為により手に入れたこと
取引行為とは、動産の所有権を移転させる法律行為のことです。
具体的にどういうものが取引行為かというと、「売買、代物弁済、弁済、贈与、譲渡、七件設定、強制競売など」です。まあ、正当な取引で取得することですね。
ちなみに、相続による取得は即時取得の対象ではありません。
また、売買とか贈与みたいな正当な取引で取得するのは即時取得の対象ですが、一方で、どっかから拾ってきた場合や伐採した場合などは取引していないので即時取得の対象にはなりません。
つまり、取引しているかが重要なんです。
3.占有を開始したこと
「占有」とは、自分の手元か自分が管理するように頼んだ人の手元にある状態のことを示します。
つまり、取引相手(前の持ち主)の手元にある状態だと、占有とはなりません。
実際に取引行為をすることで、動産の引渡しが行われ、占有の形態が変わることになります。では、引渡しの種類を確認してみましょう。
引渡しには4種類あります。
引渡しの種類
✔️引渡しの種類
- 現実の引渡し
- 簡易の引渡し
- 占有改定
- 指図による占有移転
現実の引渡し
現実の引渡しは、取引の売主が買主に直接目的物を渡すことです。
✔️具体例
パソコンを譲渡する取引で、売主が買主にパソコンを手渡しする。
簡易の引渡し
簡易の引渡しは、既に買主(貰い手)の方に目的物がある時に、売主(持ち主)が目的物を譲ると伝え、それ以降は買主のものになることです。つまり、物自体の移動はないけど、所有者のみが変わるという方法です。
✔️具体例
AがBにカメラを預けたまま、1年が経過した。その後、Aは新しいカメラを買ったので、Bに「預けていたカメラはもう使わなくなったからあげるよ!」と言い、Bにカメラを譲った。
占有改定
占有改定は、目的物を売主(持ち主)の手元に残したままで、買主に占有を移すことです。つまり、目的物は移動せず、占有者のみ変更になります。占有者が変更後も、引き続き前の持ち主の手元に残ります。
✔️具体例
AはBに誕生日プレゼントとしてテレビゲームをあげたが、Bが引っ越すまではAの家にしばらく置いておくことにした。
指図による占有移転
指図による占有移転とは、目的物を代理人に占有させていた本人が、今後は違う人(第三者)のために占有するように命じることです。指図による占有移転では、代理人の諾否は関係なく、第三者が承諾すれば成立します。
✔️具体例
AはBにダイヤモンドを渡して、Aのために占有・管理するようBに命じていた。ある時、AはそのダイヤモンドをCに譲ることに決め、Cが承諾したので、Bに「今後はCのためにダイヤモンドを占有・管理してくれ!」と命じた。
即時取得の対象にならない引渡し
引渡しの種類4つを紹介しました。この中で、「占有改定」は、即時取得の対象外です。
なぜなら、目的物が自分の手元にも、管理者の手元にも残らないからです。
これでは、即時取得の条文に書かれている「占有を始めた」に該当しません。
4~7.平穏・公然・善意・無過失
平穏・公然・善意の3つの要件については、最初から要件を満たすと民法186条1項により推定されます。
ちなみに、民法186条1項には、「占有者は、所有の意思をもって、善意で、平穏に、かつ、公然と占有するものと推定する。」と書かれています。
したがって、即時取得を主張する側は、主張しなくても良いのです。
また、無過失についても、判例では民法188条が適用され、推定されることになります。
民法188条に「占有者が占有物について行使する権利は、適法に有するものと推定する。」とあります。つまり、取得者は自分に過失がないことを立証する必要はありません。
結論、平穏、公然、善意、無過失全て推定されることになります。
8.前主が無権利者であること
即時取得は、取引相手として無権利者から取得した場合に成立します。
そもそも、正当な権利を持っている人から取引して手に入れたものは、即時取得を主張する必要がありません。
即時取得は、処分権限のない無権利者から取得した動産について、取得者を保護するための制度になります。
ここで、無権利者と認められなかった例を紹介します。
無権利者と認められなかった例
- 取引相手が無権代理人
- 取引相手が制限行為能力者
- 取引相手が錯誤・詐欺・強迫により取引した場合
これらの場合は、即時取得の適用はありません。
ただし、これらの者の先に転得者がいる場合は、即時取得が認められます。
転得者はその動産が詐欺された物であるとわかるはずも無く、一番保護されるべきだからでしょう。また、転得者にとっては、取引相手は無権利者だからですね。
さて、話を戻します。なぜ上記に挙げた例が、即時取得の適用を受けないのかを説明しましょう。
無権代理人
「相手方に所有権がある!」と思って取引したわけではなく、あくまでも「相手方に代理権がある!」と思って取引しているからです。
つまり、所有者である本人とやりとりして取得したわけではないからです。あくまでも相手は代理人です。
✔️具体例
Aが、Bの代理人と称するCから、代理権があると信じてB所有のテーブルを購入し、その引き渡しを受けました。しかし、Cは実際には代理権がなかったとき、Aに即時取得の適用はありません。
制限行為能力者
制限行為能力者は取り消すことが可能です。そのため、即時取得は認められません。
そもそも即時取得は、処分の権限のない者(無権利者)と取引した相手方が主張できるものです。
制限行為能力者の場合は、取消権が与えられていますので、無権利ではありません。
錯誤・詐欺・強迫
錯誤・詐欺・強迫によっても取り消すことが可能です。そのため、即時取得は認められません。
制限行為能力者と同様の理由です。
即時取得の具体例
✔️事例1 Aは、Bの承諾なしに、Bのために取引することを示した上で、B所有の時計をCに売却した。 |
👉 この場合は、AはBの代理人として取引しているので、無権利者ではありません。
よって、Cによる即時取得は成立しません。
✔️事例2 Aは、Bの承諾なしに、自己のものであるとして、B所有の時計をCに売却した。 |
👉 この場合は、Aが本人として取引しているので、Aは無権利者といえます。
よって、Cによる即時取得が成立します。
✔️事例3 Aは、Bの所有する山林に生育する立木について、Aのものであると誤信して、立木を伐採した。 |
👉 立木の伐採は、有効な取引行為ではないため、Aによる即時取得は成立しません。
✔️事例4 Aは、Cの所有するダイヤモンドを盗み、善意無過失のBに売却した。 |
👉 Bによる即時取得が成立します。
まとめ
即時取得について理解できましたか。
即時取得の要件さえ、覚えてしまえば、あとは実践あるのみです。問題集にたくさんチャレンジして、マスターしましょう。
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